住宅ローンが払えなかったら
自己破産しなくてはいけないのか

住宅ローンと自己破産

住宅ローンが払えなくなり任意売却することになったら、自己破産しなくてはいけないんでしょうか」
というご質問をいただくことがあります。
これはよくある誤解で、任意売却をしたら必ず自己破産につながるわけではありません。
任意売却に至る過程で、住宅ローンを支払うためもしくは生活資金・事業資金等のために他からの借り入れが増えてしまっているケースが少なくないため、たしかに、任意売却をして自己破産をする方も珍しくはありません。
ただ、任意売却と自己破産は別物です。任意売却をして自己破産をしていない方もたくさんいらっしゃいます。

このページでは、住宅ローンが払えなくなった時に自己破産がどのように関わっててくるのか、また、そもそも自己破産とはどのような手続きなのかをまとめます。

住宅ローンの返済が難しくなっても、それが直接自己破産につながるわけではありません。
自己破産とはどのような手続きなのかを再確認し、ご自身の状況と照らし合わせてください。

住宅ローン滞納後の流れ

住宅ローン滞納後の流れ

住宅ローンの返済が難しくなっても自己破産へつながるわけではありません。
住宅ローンの返済ができず滞納が続くとどうなるのかについて、ざっくりとした流れを下記にまとめます。
金融機関によって対応のスピードは異なるため時期は前後しますが、 住宅ローンを滞納後、強制的に競売へと進むまでの大まかな流れです。

①住宅ローン滞納だいたい3~6か月:
個人信用情報機関へ金融事故として記録される

住宅ローンを借入れた金融機関から督促状や催告書など、支払いを求める通知が来ます。
また、3ヵ月以上住宅ローンを滞納したころから、「個人信用情報機関」に金融事故として記録が登録されます。いわゆるブラックリストに載る、というのがこのことです。

※住宅ローンの支払い困難が一時的である場合には、住宅ローンの滞納前であれば、金融機関と住宅ローンの返済計画の見直し(リスケ)を相談できる可能性もあります。

②住宅ローン滞納だいたい6か月以後:
期限の利益の喪失

住宅ローンは毎月決められた期限に決められた金額を返済すると約束した契約です。
住宅ローンの滞納が続くと契約違反となり、住宅ローンを分割で返済する権利を失います。
住宅ローンを分割で返済する権利を失うと、残っている住宅ローンを一括で返済するよう求められます。

③保証会社による住宅ローンの代位弁済

住宅ローンを滞納している状況で、住宅ローンの残額を一括で支払える方はほとんどおらず、期限の利益の喪失後は多くのケースで保証会社による代位弁済が行われます(借入先が住宅金融支援機構の場合は保証会社はありません)。
ここから先は、住宅ローン返済の交渉相手が借入をした金融機関から保証会社へと移ります。

④不動産の差し押さえ、競売の申し立て

代位弁済後も何もしなければ、金融機関は不動産を差し押さえ、強制的に競売手続きに入ります。
不動産を換金して債権の回収を行うために、裁判署へ競売の申し立てを申し出ます。

※任意売却を検討されている場合には、住宅ローンの代位弁済後に交渉相手が変わってから、本格的な売却交渉・手続きに入ります。

⑤競売開始決定・執行官による自宅の調査

金融機関が競売の申し立てをした後は、裁判所から「競売開始決定通知」が届き、競売準備のために裁判所の執行官が不動産鑑定士を同伴させて自宅の調査にきます。競売では内覧がないため、買主に不動産の情報を伝えられるよう、インターネット掲載用として強制的に外観や室内の写真を撮ったり、不動産の査定をしたりします。

※任意売却では通常の不動産売却と同様に内覧制度があるため、生活している室内の写真を強制的に撮ってインターネットに掲載することなどはしません。売主様のご協力のもと物件情報を公開することはあります。

⑥競売入札の開始

多くの場合、住宅ローン滞納から10ヶ月〜12ヶ月程度で入札の開始が始まります。

※入札の前日までが、任意売却完了のリミットです。買主を見つけるだけではなく、契約の締結と引き渡しまで、すべてを完了していなくてはいけません。

以上が住宅ローン滞納から競売までの大まかな流れです。
競売にしても、任意売却にしても、売却価格で住宅ローンの残債を完済できなければ、住宅ローンの支払い義務は残ります。
どういう場合に自己破産という選択肢が出てくるのか、住宅ローン滞納・競売・任意売却がどのような関係にあり、どのような場合に自己破産が選択されているのかを次にまとめます。

住宅ローンの滞納、自己破産、任意売却の関係

住宅ローン、自己破産、任意売却の関係

任意売却と競売の違いについては他のページで詳しくご説明していますが、任意売却は競売に比べて市場価格に近い高値で売却することができる売却方法です。

住宅ローン滞納から何も行動をしなければ強制的に競売手続きへと進んでしまいますが、不動産会社へ相談して任意売却を成功させられたら、競売よりも高値で売却し、住宅ローンの残債を減らすことができます。
さらに、競売では不動産売却後に残った住宅ローン残債を一括で支払うよう命じられますが、任意売却の場合は住宅ローン残債の分割支払いについて交渉が交渉できます。

住宅ローンの滞納、自己破産、任意売却の関係:
住宅ローンの他に借り入れが(ほとんど)ない場合

任意売却であれば不動産売却後に残った住宅ローン残債について分割支払いの可能性がありますが、競売では、住宅ローン残債も多く残る上に、一括支払いを求められるということです。
ここで、任意売却と競売とで、住宅ローン滞納が自己破産につながるかどうかが変わってきます。
住宅ローンの他に借り入れがない、もしくは支払っていける範囲の借り入れ金額である場合には、任意売却後に自己破産をせず新しい生活をスタートさせることも多いです。

住宅ローンの滞納、自己破産、任意売却の関係:
住宅ローンの他に借入がある場合

住宅ローンの他にも払いきれないほどの借入がある場合には、任意売却であっても、競売であっても、自己破産が選択されます。

ここで、「どのみち自己破産をするのだから、任意売却でも競売でもどちらでも同じ」と考えられる方もいらっしゃいますが、連帯保証人や連帯債務者の方がいらっしゃる場合には特に、住宅ローンの残債を減らすために任意売却をすることをご提案しています。

また、任意売却を選択したとして、任意売却と自己破産どちらが先かについても、よくご相談をいただきます。
どちらを先にした方がいいという決まった答えはありませんが、多くの場合、任意売却が先に行われます。
この後ご紹介するように、任意売却を先にして所有財産を減らした方が自己破産の手続きを安く・短期間に完了できる可能性が高いからです。

ただ、複数箇所から借入をされていてご自宅や会社への取り立てがひどく精神的にも厳しくなっていらっしゃる場合などでは、任意売却よりも自己破産の手続きを先に行います。
そうすることで取り立てを停止させ、また、債権者との交渉を弁護士さんにお願いできるからです。

住宅ローンを滞納すれば必ずしも自己破産につながるわけではありません。
任意売却後に残った負債を支払っていく計画を立て、自己破産をせずに生活を再出発されているケースはたくさんあります。
一方で、任意売却をしても残った負債に対して支払っていける目処が立たない場合には、自己破産されるケースもあります。

以上、住宅ローンの滞納と自己破産との関係について、競売にするか任意売却にするかを検討するタイミングと合わせてまとめました。

自己破産とは

自己破産とは

自己破産の破産とは破産法の自由を指しており、さらに、自己がということで、自分が申し立てる破産を想定においています。
破産は債権者申し立てといって債権者が申し立てることもできるのですが、自己破産というのは自己が申し立てる破産のことです。

自己破産の流れ

自分で、「私自身が申し立てます」という破産であるため、自己破産はまずはご本人が申し立てをすることから始まります。

まず、申し立てです。申し立てというのは弁護士が裁判所に行うため、自己破産を考えているご本人ではできません。そのため、今日明日にできるというものではなく、2ヶ月くらいはかかる手続きとなります。
自己破産の申し立ては、家計収支表という家計簿のようなものを整えたり、債権者の詳細などをまとめるなど、細かな作業を積み重ねて行います。

申し立ての次に、裁判所が開始決定を行います。開始決定を行ったあと、自己破産には2つのルートがあります。
1つが同時廃止事件、もう1つが破産管財人を選任する寒剤事件です。
同時廃止事件にしても、管財事件にしても、通常であればその後免責となり、自己破産の手続きは終了します。

自己破産、同時廃止と破産管財人の違い

自己破産は同時廃止事件になるのか、管財事件になるのかによって、手続きに要する費用や時間が大きく変わってきます。

同時廃止事件とはその時の通り、自己破産申し立てに対して開始決定と同時に廃止となる事件です。手間が少ないため費用も少なくすみ、また、自己破産の手続きが完了するまでの期間も短いという特徴があります。

もう1つの管財事件、破産管財人がつくケースでは、自己破産の開始決定がされたあと破産管財人が選任され、破産管財人により債権者集会が何度かに分けて開かれ流などの流れとなります。
破産管財人とは、自己破産の申し立てに対して、不正を行っていないかをチェックする人で、多くの場合弁護士から選任されます。

同時廃止事件になるか管財事件になるかの境界は地域ごとによって異なりますが、負債の額が多かったり、不動産や多額の預貯金を持っている場合には管財事件になると考えた方がいいでしょう。
逆に、現金は10万円程度、負債が少なく債権者も多くなく、不動産を持っていない、自動車も下取りに出したら20万円程度だった、といった状況では、同時廃止事件となる可能性があります。

自己破産の費用について

自己破産をするためにはお金が必要です。
自己破産のために用意するお金には、弁護士費用と予納金があります。弁護士費用は手続きをお願いする弁護士さんに支払う費用、予納金とは、裁判所に納める費用です。

予納金は、同時廃止事件と管財事件とで変わってきます。破産管財人は自己破産の申し立てに不正がなかったかチェックをする、多くの場合弁護士から選任されるため、そこに支払う費用として最低でも20万5千円が必要です。同時廃止の場合にはこのお金がほとんどなく、必要なのは官報に載せるためなどの実費の費用となります。

自己破産で必要となる費用は地域ごとに異なるので、詳しくはお住まいの地域の裁判所情報をご確認ください。
>>各地の裁判所

自己破産、免責されない債権や支払い義務

自己破産の特徴は債務の支払い義務がなくなること、つまり、免責されることです。
しかし免責されない非免責債権というものもあります。例えば、税金や養育費です。

税金についてはこのサイト内の他のページでも取り上げていますが、固定資産税などの税金や国民健康保険などの保険料は自己破産しても免責されません。
必ず払わなければならず、相続もされます。住宅ローンはなんとか払っていたけれど固定資産税を滞納している、といった方もいらっしゃいますが、税金や保険料への考え方はよくよくご注意ください。

養育費については、ご質問が多いため取り上げました。
離婚して公正証書を締結する方もいらっしゃるかと思いますが、取り決めた養育費は免責されないので自己破産をしても払い続ける必要があります。逆に言えば、自己破産をしても養育費は払い続けられるということでもあります。

自己破産をしても免責されない債権は他にもあります。詳しくはお近くの専門家へお問い合わせください。

自己破産の影響

自己破産をするとどのような影響があるのか。多くの方が自己破産という言葉をきたことがあるかと思いますが、誤解がある場合もあるため基本的な部分をまとめます。

自己破産の影響:債務について

自己破産をするとほとんどの債務が免責されます。しかし、先ほどご説明した通り税金などの非免責債権は免責されません。

自己破産の影響:職業について

自己破産をすると資格制限を受ける職業があります。
よく知られているのは会計士や行政書士などの士業の多くや警備員ではないでしょうか。
こうした職業についている方は自己破産のか意思決定から職業制限がかるため大きな影響を受けることになります。
ただ、免責許可決定が確定すれば資格制限は解除されます。

ここでよくいただくご質問について補足です。
看護師や保育士などの職業も資格制限を受けるのではないかと心配される方もいらっしゃいますが、それらの職業は自己破産による資格制限にはあたりません。

自己破産の影響:その他

債務や職業の他、自己破産の影響としては自己破産手続き期間中に引っ越しをするときは裁判所の許可が必要であることや、管財事件の場合には郵便物を破産管財人から閲覧を受ける可能性もあるといったことが挙げられます。

また、官報に載ることを心配される方もいらっしゃいます。
官報はインターネットでも見られるもので、官報に載ることで会社に知られてしまうのではないか、子供の学校に知られてしまうのではないか、とご相談をいただくこともあります。官報に載ったことで会社に知られるか、また、お子様の学校に影響があるかは一概には言えませんが、銀行など特別な職業でない限りは官報に載ったからといって世間に自己破産したと知れ渡ることはそう多くはありません。
どうしてもご不安が拭えない場合には、知られてもいいように環境を変える、もしくは予めご自身で伝えるなど対策を取ることも選択肢の1つですので、専門家と相談してもいいかと思います。

自己破産の影響と混同されやすい、
住宅ローン滞納の影響

上記で自己破産の影響をまとめました。
自己破産の影響と混同されることの多い内容に、住宅ローン滞納による影響があります。

例えばブラックリストに載ることや、クレジットカードが使用できなくなること、金融機関からの借入れが一定期間できなくなることなどは、自己破産の影響ではなく、住宅ローンを滞納したために起こる影響です。

ブラックリストに載るのは住宅ローン滞納が原因

個人信用情報機関に金融事故として記録される(通称ブラックリストに載る)というのは、自己破産が原因ではなく、住宅ローンの滞納が原因です。
住宅ローンを一定機関滞納すると、その時点で、ブラックリストに載ります。これは住宅ローンに限ったことではなく、カードローンなどその他の借り入れでも同様です。
住宅ローンの滞納を続けてしまうなど、自己破産に至る前段階からブラックリストには載っているとご認識ください。

クレジットカードが使用できなくなるのは住宅ローン滞納が原因

クレジットカードが使用できないというのは、住宅ローンを滞納してブラックリストに載ったことが原因で起きるため、これも、自己破産が原因ではなく、住宅ローン等借り入れの返済を滞納した結果だといえます。金融機関からの借り入れが一定期間できなくなることも同様です。

おわりに

「住宅ローンが払えなくなったら、また、任意売却をしたら、自己破産することになるのでしょうか」というご質問が増えています。
住宅ローンが払えなくなったらすぐに自己破産につながるわけではありませんし、任意売却をして自己破産をしていない方も大勢いらっしゃいます。
また、自己破産の影響について誤解がある部分もあります。

選択肢はいくつかあるかと思いますので、お一人で悩まず、できるだけ早く専門家へ相談されてください。
名古屋を中心に近隣の県では名古屋住宅ローン相談室でも対応させていただけます。