競売と任意売却
売却価格の差について

任意売却と競売の売却価格について

「競売よりも任意売却の方が高く売却できると聞いたのですが、本当ですか?」
「どうせ手放すなら、競売を選んでできるだけ長く住んでいた方が良い気がするのですが・・・」
といったお問い合わせをいただくことがあります。

ご相談社様のご事情によって任意売却がいいのか競売がいいのか、はたまた手放さなくてもいいのか、など、ご回答する内容は異なるのですが、明らかなのは、競売よりも任意売却の方が高値で売却できるということです。
住宅ローンよりも売却価額の方が少ない場合、競売でも任意売却でも、差額の支払いは続きます。仮に自己破産を選択したとしても、連帯保証人がいらっしゃる場合にはできるだけ残債を減らしたいとお考えになるかと思います。
つまり、手放すことは同じだとしても、できるだけ高値で売却した方がいいケースが多いということです。

このページでは、競売と任意売却について、売却価額のみに絞って仕組みを解説しています。
住宅ローン問題を抱えていらっしゃる方、競売と任意売却で迷われている方は、知識として知っておいて役に立つのではないかと思います。
任意売却と競売の違い(引き渡し時期の交渉可否、残債支払いについての交渉の可否など)については他のページでもいくつかご紹介させていただいているのでそちらもご参照ください。

任意売却や競売、住宅ローンの問題については、それぞれのご相談社様で状況が異なり、解決策も変わってきます。
サイトの情報をご参照いただきながらも、ローンの支払いに困難を抱えていらっしゃる場合にはできるだけ早く専門家へご相談ください。

不動産に限らず、所有物を売却される際には、原則、できるだけ高値での売却が理想かと思います。
ページの最後には物件を高値で売却するためのメモも記載したので、併せてご参照ください。

競売と任意売却。
売却価格の違いについての考え方

任意売却と競売の売却価格の違い

競売で落札される場合と、任意売却で購入される場合、どれくらいの差額が出るのかご説明していきます。
まずはじめに、どれくらいの差が出るのかをざっくりお伝えします。

個別条件で変わるため目安にはなりますが、少し乱暴な言い方をすると、
競売では市場価格の6〜7割ほど、任意売却では市場価格の9割ほど
で買手がつくイメージです。

それでは下記に、競売、任意売却、それぞれの売却価額についてご紹介していきます。

競売の落札価格について

競売と任意売却、競売の落札価格

競売は入札価格から決まるためいくらで落札されるのかは物件ごとに異なります。 一方で、競売物件を購入しようとする際の入札下限価額は決められています。
競売物件の落札とは、原則、競った結果最も高い入札価格を提示したバイヤーへの売却になるため、入札参加者は競売物件を入札できるできるだけ安い金額で、かつ、ライバルよりも高い金額で入札することを狙うわけです。
そうした状況で、入札ができる最低の価格については下記のように決められています。

入札できる最低の価格(買受可能価額と呼ばれます)の計算方法

入札下限価格≒市場価格×0.7×0.8
競売物件を入札できる最低の価格は、一般的には、市場価格の7掛けをさらに8掛けした価格、つまり、市場価格の56%となります。

下記、順番に説明します。

入札できる最低の価格は、買受可能価額と呼ばれます。
買受可能価額は売却基準価額という評価人が競売物件を評価した価格から2割差し引いた金額とされています。
つまり、下記のようになります。
入札できる最低の価格=買受可能価額=売却基準価額×0.8

売却基準価額は、市場価格に競売市場修正率を反映した金額とされています。
競売市場修正率は一定ではありませんが、3割が一般的です。
そのため、売却基準価額は市場価格から3割差し引いた金額とされます。
売却基準価額≒市場価格×0.7

ここまでをまとめると
入札できる最低価格=買受可能価額≒市場価格×0.7(競売市場修正率を反映)×0.8(売却基準価額から2割差し引く)
となるわけです。

買受可能価額とは

買受可能価額は、売却基準価額から20%差し引いた金額です。
これが入札の最低価額となり、これより低い金額は入札として認められません。
売却基準価額≒競売評価額から2割を差し引く制度は、平成17年4月1日から施行された改正民事執行法で改訂された内容です。

<参考>民事執行法
第60条
1. 執行裁判所は、評価人の評価に基づいて、不動産の売却の額の基準となるべき価額(以下「売却基準価額」という。)を定めなければならない。
2. 執行裁判所は、必要があると認めるときは、売却基準価額を変更することができる。
3. 買受けの申出の額は、売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額(以下「買受可能価額」という。)以上でなければならない。

売却基準価額とは

競売物件はいくつかのデメリットがあるため、不動産鑑定士が市場価格として算定した金額に対して競売物件のデメリットを配慮して競売市場修正率を反映した価額が買受可能価額です。

競売市場修正率とは

競売市場修正率は、一般的には3割程度と設定されていますが、常に一定ではありません。 地域性や執行裁判所によって異なる上に、市場動向、社会情勢を鑑みて適宜見直しも行われています。
例えば、平成28年の東京地方裁判所における決定では、域内の市場動向および当時の競売市場の需要動向を考慮し、東京23区内の物件については種類を問わず従来のマイナス30%からマイナス20%に競売市場修正率が変更されました( 平成29年3月1日〜)。

【競売市場修正率として買受可能価額に反映される、競売のデメリットとは】

競売の注意がき競売物件の評価が記載される「評価書」より抜粋

競売不動産特有のデメリットが、競売市場修正率として買受可能価額に反映されます。
競売不動産特有のデメリットは、下記の内容です。
・売主の協力が得られないことが常体である
・内覧制度による他は買受希望者は物件内部の確認ができない
・引き渡しを受けるために法廷の手続きが必要になる場合がある
・瑕疵担保責任がない
その他、ローンが組みにくい、事故物件が多い、など

競売についての補足1:
近年は開かれた競売へと変わってきています。

競売といえば、「恐い」といイメージを持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。
確かに以前は、競売物件を見に行ったら組の看板がかかっているなど、いわゆる占有者の存在がある競売物件もありました。
しかし近年では占有がかなり減っている上に、令和元年5月に成立、翌年4月より施行された民事執行法の改訂で「不動産競売における暴力団員の買い受け防止」などの方策が盛り込まれており、現在、占有者は競売妨害ということで通報されます。
開かれた競売に向けて制度が整備されているということです。

競売についての補足2:
競売物件は個人でも落札することが可能です。

ご自身の住宅を競売に出す場合には個人投資家の行動に対して心の準備が必要となります。
投資不動産用に競売物件を熱心に研究している個人投資家の方がいらっしゃるからです。
競売物件に目をつける個人投資家は、とても熱心な方が多く、例えば
「サイト上で気になる物件を見つけるやいなや現地へ出向き、自分の目で物件の状態を確認する」
という方も珍しくはありません。
そして競売物件の買受を検討する個人投資家の方は、物件自体、駅からの距離や街並みの雰囲気を確認するのみならず、付近の方々へのヒアリングも熱心に行う場合があるようです。
もちろん、購入する物件への純粋な調査ですから、競売物件を検討する個人投資家の方に悪意はないでしょう。
しかし、何人もの熱心な個人投資家に近所中ヒアリングをされることは、住宅を競売に出したことが近所に知れ渡った上に噂になってしまうという事態を引き起こす行為でもあります。

<参考>
全国の競売物件が閲覧できるBIT(不動産競売物件情報サイト)は裁判所が管理しており、誰でも検索することが可能です。
BIT(不動産競売物件情報サイト):http://bit.sikkou.jp/app/top/pt001/h01/

任意売却の売却価格について

競売と任意売却、任意売却の売却価格

任意売却では、競売と比較すると市場の相場に近い価格で不動産を売却することができます。
先ほど、任意売却における売却価格のイメージは市場価格の9割とご説明しました。
割引かれている理由について説明します。

任意売却にはつかないケースが多い瑕疵担保責任

不動産取引が成立して引き渡した物件に欠陥が見つかった場合に売主が買主に対して責任を負うことを瑕疵担保と言います。
瑕疵担保責任がついている物件であれば、引き渡し後に見つかったシロアリ被害、構造部分の欠陥、雨漏れ、など重大な瑕疵に対して、売主は保証します。
しかし任意売却物件では、住宅ローン問題を抱えた売主に責任を負えるだけの支払い能力がないために売主が瑕疵担保責任を負うことができない場合少なくありません。
そのため、任意売却物件の売買契約には瑕疵担保免責と行って瑕疵担保がつかないケースが多いのです。

任意売却物件ではリスクが割引かれている

瑕疵担保責任がついている物件とついていない物件、どちらの方が安心できるかといったら、もちろん、瑕疵担保責任がついている物件です。
買主は瑕疵担保責任がついていない分、購入した物件に瑕疵が見つかっても保証してもらえないというリスクと引き換えに、不動産を安く購入します。
そのため、任意売却物件では市場価格よりも1割程度割引かれた金額で購入されるというイメージになるのです。

補足:市場価格の考え方について

「市場価格」というと、決まった正解があるように誤解されてしまうのですが、不動産の市場価格とは曖昧なものです。
時計や車などとは違って査定する人と購入する人が同じではない、所有者やローンの返済状況で売買条件が変化する、など理由はいくつかあるのですが、とにかく、一般的な売却でも、任意売却でも、競売でも、不動産の市場価格とは曖昧な要素が残ることは頭の片隅に覚えておいていただけたらと思います。
話がとんでしまうかもしれませんが、例えば、インターネットの不動産一括査定で出てきた査定額を市場価格と考えて離婚時の財産分与などを決めてしまうと、後々になって大きな問題になってしまうかもしれません。

<参考>不動産査定と任意売却

まとめ

競売と任意売却での売却価格の違いについてご紹介しました。
任意売却がいいのか競売がいいのか、もちろん任意売却をした方が物件を売却するご相談者様にとって利益となることが多くあります。
ただ、ご相談者様のご事情によっては回答が変わることもあります。
例えば、自己破産も視野に入れた中で、もうこれ以上債権者との交渉をする精神的な余裕がない、という状況であれば、競売を選択して代理人に全ての交渉を任せてしまった方がいいかもしれません。

一方で、まだ色々と迷っている段階であるならば、
・競売よりも任意売却の方が高値で売却できること
・任意売却なら残債支払いの交渉可否や退去時期の交渉ができること
など、任意売却と競売の違い、任意売却と競売を比べたときの任意売却のメリットを総合的に知った上で選択した方がいいかと思います。
本ページの内容も判断基準をつくることにご活用ください。

補足:
任意売却で少しでも高く売却するために

競売・任意売却の売却価格の違いとは直接関係はありませんが、売却価格というつながりで、不動産物件を少しでも高く売却するためのメモをご紹介します。

不動産を高く売る方法:
買主さんの安心材料を集める

保証やホームインスペクションで買主さんの安心材料を集めることが、不動産を高く売却することにつながるケースがあります。

不動産の保証には、新築時についている10年保証、不動産会社から中古物件を購入した際の2年保証、個人の売主さんから中古物件を購入した数ヶ月の保証、売却時につける瑕疵担保などがあります。
買主さんにとってみれば、保証が多ければ多いほど安心材料となり、安心できる物件は購入へのモチベーションも高まります。
そのため、保証の多い物件は売却しやすくなる傾向があります。
(※)適正価格を大きく超えて売却に影響を及ぼすほどではありません。

また、建物について建築士さんにレポートを作成してもらうホームインスペクションも売却をアシストしてくれます。
保証の少ない中古物件において、第三者からの客観的な鑑定があることは安心材料になるからです。
注意点として、第三者からの鑑定となるため望んだ結果が出ない可能性があること、また、任意売却のメリットのが挙げられます。
ホームインスペクションを希望される際には、任意売却であっても自己負担となります(費用は大体5〜10万円ほどです)。

不動産を高く売る方法:
物件をきれいにする

当たり前だと感じられるかもしれませんが、物件をきれいにしておくことは想像以上の効果があると思ってください。
特に難しいことをしなくても、引越し準備を前倒しで進めて、いらないものを捨てる、すぐに使わないものを段ボールにしまってコンパクトにまとめておく、といったことをするだけで、部屋が広く見えるようになり、また、好印象な室内になります。
買主さんに楽しいイメージを沸かせるために、室内をショールームのようにコーディネートすることも効果的です。